2020年度より,原則オンラインセミナーとなりました.参加をご希望の場合は木村までご連絡ください.
今後のセミナー
過去のセミナー (2024年度)
- 日時 : 11 月 12 日 ( 火 ) 17:00 -
- 講演者 : Marcin Wieśniak さん ( Gdansk Univ. @ Poland )
- タイトル : Multipartite Entanglement vs multiparticle entanglement
- 概要 :
Entanglement is one of the most intriguing features of quantum mechanics, allowing two (or more) systems to exhibit correlations unattainable by classical means. A very rich and complicated structure of set of entangled states, even in the bipartite case, led us to formulating numerous entanglement criteria, but none, which would be fully discriminative. In a similar fashion, we treat presence of entanglement as a comunicationally useful resource, which we want to quantify. Apart from discriminance, a desired measure should satisfy a few additional requirements. These properties include additivity of the resource over shared states, contactivity under LOCC, or computability for any given state. This combination again did not allow us thus far to formulate a proper entanglement measure, except for pure bipartite states. The situation xomplicates even further if we consider multiple subsystems. In such a case, a minimal list of requirements is debatable, and, for example, some Authors do not list contractiveness. However, we have no reason to believe that multipartite entanglement is the same type of resource bipartite quantum correlations. It is necessary to attain near-zero temperatures in certain solid-state models, or for the GHZ paradox.
However, by definition, we can, e.g., certify separability (i.e., lack of entanglement) by finding a decomposition of a given state to product states. If one cannot find such a representation, we get an upper bound on distance of the state to the set of separable states. This approximation can also provide an entanglement witness. My group has developed such an algorithm. By a trivial extension, it allows to study presence of Genuine Multipartite Entanglement (GME).
In the presentation I will remind that GME can be generated either by takingf multiple copies of the same, GME-free state, or by applying operations commonly considered local. Recently, this effect was dubbed “activation of GME”. This clearly contradicts natural requirements for resource measures, but it can saved by a careful interpretation of the problem.
I will also take the opportunity to discuss a new essay on the measurement problem.
- 日時 : 7 月 17 日 ( 水 ) 17:00 -
- 講演者 : Frederik vom Ende さん ( ベルリン自由大学 )
- タイトル : Generators of Dynamical Semigroups & Their Uniqueness
- 概要 :
It is well known [1,2] that every generator L of a completely positive, trace-preserving dynamical semigroup is of the form L=-i[H, · ]+Φ-½{Φ*(1), · } for some Hamiltonian H and some completely positive map Φ; such L are also known as GKSL-generators. This induces a differential question ρ'(t)=Lρ(t) which—at least approximately—describes the dynamics of quantum systems that are not shielded from their environment. There is, however, another approach to quantum dynamics where one considers the system coupled to its environment from which one extracts the reduced system dynamics. This is what the first half of this talk – which is based on [3] – will focus on. There we will prove that GKSL-generators give an exact description of the reduced evolution of system plus environment if and only if the Hamiltonian of system plus environment is unbounded, so in particular infinite-dimensional. The second half of this talk is based on [4]: there we will focus on the separation between the Hamiltonian and the dissipative part of L. More precisely, we will prove that given any GKSL-Generator L and any Hermitian matrix B with tr(B)≠0, there exist unique(!) H, Φ with tr(BH)=0 and tr(Φ(B* · B))=0 which describe L. As a special case, for B=1 one recovers the uniqueness condition of Gorini, Kossakowski, and Sudarshan involving traceless Lindblad operators [1] — which now has a physical interpretation by means of our result.
- [1] Gorini, V., Kossakowski, A., and Sudarshan, E., J. Math. Phys. 17 (1976), 821
- [2] Lindblad, G., Commun. Math. Phys. 48 (1976), 119.
- [3] F. vom Ende, Open Syst. Inf. Dyn. 30 (2023), 2350003
- [4] F. vom Ende, Open Syst. Inf. Dyn. 31 (2024), 2450007
- 日時 : 5 月 20 日 ( 月 ) 17:00 -
- 講演者 : 越原 健太 さん ( 早稲田大学 )
- タイトル : 量子熱機関における量子測定の反跳の効果
- 概要 :
量子系に行う量子測定は単に量子系の情報を獲得するのみならず,測定した量子系に反跳(擾乱)をもたらす.近年,量子測定に伴う反跳を積極的に活用する熱機関が複数提案され,量子測定それ自体の熱力学的性質に関心が寄せられている.本セミナーでは,量子測定で獲得した情報を次の操作にフィードバックする熱機関(Maxwellの悪魔)を再考し,量子測定によって生じる反跳の効果が果たす役割を追究した我々の研究[1,2]について紹介する.純粋な量子測定[3]を考えて量子測定とフィードバック制御を切り分けることで,様々な熱力学的関係式(Clausiusの不等式,ゆらぎ定理,エルゴトロピー限界etc.)を破る量子熱機関を実現するためには純粋な量子測定の後にフィードバック制御を加える必要があることを示す.
参考情報:
[1] K. Koshihara and K. Yuasa, Phys. Rev. E 106, 024134 (2022).
[2] K. Koshihara and K. Yuasa, Phys. Rev. E 107, 064109 (2023).
[3] C. A. Fuchs and K. Jacobs, Phys. Rev. A 63, 062305 (2001); etc.
過去のセミナー (2023年度)
- 日時 : 12 月 12 日 ( 火 ) 17:00 -
- 講演者 : 山本 有理子 さん ( 京都大学 )
- タイトル : 粗視化測定による量子スピン系における古典化について
- 概要 :
量子論と古典論では物理的帰結や数学的枠組が異なる.
では,どのような条件が満たされる場合に,どのようにして巨視的な量子系は量子性を失い古典化を示すのだろうか.
その一つの答えとして粗視化測定(coarse-grained measurement)と呼ばれる理論がある[1].
この粗視化測定の理論では「分解能が低いために全ての情報を正確に読み取ることができない測定器」を考えることにより物理量に制限が与えられ,
この分解能の低さにより,系が大きい場合に量子性が観測できずに古典化すると主張されている.
また,近年,状態空間の次元を削減するような量子チャネル(CPTP map)を用いた粗視化測定の定式化も提案されている [2].
本発表では,この巨視的量子系における古典化を記述でき得る一つの理論である粗視化測定についての説明と,
自身の研究である量子スピン系における粗視化測定の具体例と古典化の検証結果を紹介する.
- [1] J. Kofler and Č. Brukner, Phys. Rev. Lett. 99, 180403 (2007).
- [2] C. Duarte, G. D. Carvalho, N. K. Bernardes, and F. de Melo, Phys. Rev. A 96, 032113 (2017).
- 日時 : 10 月 31 日 ( 火 ) 16:00 - 18:00
- 講演者 : 近藤 康 さん(近畿大学)
- タイトル : 溶液中の分子を用いた緩和モデルのデモンストレーション
- 概要 :
量子コンピュータや量子センサが注目されている.これらは孤立系ではあり得ず,その振る舞いを理解し開発を進めるためには,開放系の理解が欠かせない.
開放系はマクスウェルの時代から研究されてきたが,理論的な研究がほとんどで,実験的な研究は最近になってやっと行われるようになってきた.
これらの実験では,近似的に孤立系と見なせる冷却原子,イオン・トラップ,冷却電子回路などを用い,そこに環境を人工的に付加している.
本講演では, http://ykondo.sakura.ne.jp/kindai_NMR.pdf
(近畿大学での学生実験の手引き書)を用いてNMRに関するクラッシュ・コースを行なった後に,
NMRによって開放系を研究することができる別の実験系「等方的な溶媒中の分子」を紹介する [1].
等方的な溶媒の分子(環境)と溶質分子(システム)の間の相互作用は弱いことが多く,溶質分子のスピンのT1は10sを越えることもある.
したがって,溶質分子は近似的に孤立していると見なすことができる場合もある.
溶質分子のスピン系を仮想的にシステムIとシステムIIに分けてシステムIIをシステムIに対する仮想的な環境と見なすことにより,
様々な環境の中のシステム(I)の振る舞いを調べることができる.
また,溶媒中に磁性不純物を混入することにより,マルコフ的な環境を付加することも容易である.
我々は,様々な環境に置かれたスピン系[2,3,4]とエンタングルしたセンサーのダイナミクス[5]について実験的に調べ,それをGKSL方程式によって解析した.
実験結果と解析はよい一致を示した.
- [1] Y. Kondo, M. Matsuzaki, Modern Physics Letters B 32, 1830002 (2018).
- [2] LeBin Ho, Y. Matsuzaki, M. Matsuzaki, Y. Kondo, New J. Phys. 21, 093008 (2019).
- [3] S. Kukita, Y. Kondo, M. Nakahara, New J. Phys. 22, 103048 (2020).
- [4] S. Kukita, H. Kiya, Y. Kondo, submitted.
- [5] LeBin Ho, Y. Matsuzaki, M. Matsuzaki, Y. Kondo, JPSJ 89, 054001 (2020).
詳細は添付ファイル ( Microsoft Word
ファイル )
- 日時 : 10 月 24 日 ( 火 ) 17:00 -
- 講演者 : 桑名 隆久さん(電気通信大学)
- タイトル : 光カーゲート法による量子もつれ光の超高速2光子時間分布測定
- 概要 :
量子もつれ光の周波数ー時間自由度における相関は量子情報通信や量子センシング技術などの幅広い応用が期待されており,その物理的な性質を理解することは重要である.
そのためには周波数相関や時間相関を実験的に測定する技術が必要不可欠である.
周波数相関は,可変バンドパスフィルターにより透過帯域を任意に制限する手法や,ファイバーで生じる波長分散を利用するファイバー分光手法などにより,比較的簡単に測定することが可能である.
一方で時間相関は一般的にフェムト秒オーダーの時間幅であるため,サブピコ秒の時間分解能を有する単一光子検出器が必要となる.
しかしながら光電子増倍管や半導体単一光子検出器などの,直接的な光電変換を行う単一光子検出手法はピコ秒オーダーの分解能であり,時間相関の測定が困難である.
ところで,今年ノーベル物理学賞を受賞したように近年研究が盛んな超短パルスレーザーは,数百フェムト秒の時間内で100kWオーダーの非常に大きなピークパワーが特徴である.
このため媒質中でパルス時間幅程度の瞬間的な非線形光学効果を誘起させることが可能となり,これを用いると光ゲート法と呼ばれる超高速な光検出が可能となる.
光ゲート法はその仕組みから,パルス時間幅程度の分解能を達成することが可能である.
光ゲート法には被測定光波長の上方変換を行う和周波発生法と,光カー効果を利用して偏光や位相などを変化させる光カーゲート法がある.
和周波発生法による量子もつれ光の2光子時間分布測定はすでに複数研究例があり,研究室内でも測定に成功している.
一方で光カーゲート法による測定はSN比が十分でないなどの理由から困難を極めていたが,
今回この問題を解決して世界初となる光カーゲート法による量子もつれ光の超高速2光子時間分布測定に成功したため,本非公式セミナーではそれについて主に紹介する.
また,これに加えて量子もつれ光の実験的な発生方法や.量子光学における測定の実験的な手法などについても併せて紹介する.
- 日時 : 7 月 25 日 ( 火 ) 17 : 00 -
- 講演者 : Anindita Bera さん ( Copernicus University, Poland )
- タイトル : New classes of optimal entanglement witnesses
- 概要 :
Entanglement witnesses (EWs) are a versatile tool in the verification of entangled states.
During my presentation, I will first briefly talk about the necessary details of EWs and its
correspondences with positive map. Then I will be discussing new classes in entanglement
witnesses (EWs) and their optimality. These classes of witnesses generalise the known families
of entanglement witnesses, mainly the Choi and the reduction. I will talk about a nontrivial
optimization procedure, which is needed if the witnesses are not optimal. While we can use the
spanning criterion to achieve optimality, it may not be enough. Some entanglement witnesses are
proven to be optimal, without satisfying the spanning criterion.
- 日時 : 7 月 4 日 ( 火 ) 11 : 00 - 12 : 30
- 講演者 : David Avis さん ( 京都大学 )
- タイトル : Quantum Correlations: Bell Inequalities to Tsirelson's Theorem
- 概要 :
In this talk we address the following questions:
- What are Bell inequalities?
- Why are they important?
- How can we find new Bell inequalities?
- How can we characterize quantum correlations?
- Some applications
- 日時 : 6 月 20 日 ( 火 ) 17 : 00 -
- 講演者 : 久木田 真吾 さん ( 防衛大学校 )
- タイトル : 繰り込み群の方法から考える開放量子系ダイナミクス
- 概要 :
もともと量子論はユニタリ発展をする閉じた系を対象としている。
しかし、それでは現実の系を語るのに不足ということで、外部からの影響を受ける開いた量子系、「開放量子系」のダイナミクスを記述する方法が古くから研究されてきた。
このような方法の一種である「量子マスター方程式」は、対象となる量子系と外部系を複合した系のユニタリ発展から、
種々の近似(環境系が大きいこと、相互作用が弱いこと)を用いることでかなり一般的に導出することができる。
本発表では、開放量子系ダイナミクスを記述する方法として、量子マスター方程式とは異なった「繰りこみ群の方法」に基づいたものを紹介する[1]。
これを用いた場合、(1)ある極限では量子マスター方程式と同様の結果を与える、(2)この極限以外では量子マスター方程式より簡単なダイナミクスを与える、
(3)マスター方程式の導出ではアドホックに導入されたとある近似が、外部系に対するある物理的(数理的?)条件の下で理論的に正当化される、という興味深いことが起こる。
これらの結果を解説しつつ、繰り込み群の方法に基づくダイナミクスと量子マスター方程式を比較したい。
[1] S. Kukita, Phys. Rev. E 96, 042113 (2017)
- 日時 : 5 月 16 日 ( 火 ) 17:00-
- 講演者: 渡辺 あかね さん(早稲田大)
- タイトル:可解な開放 Jaynes-Cummings 模型から出発する非マルコフ過程のマスター方程式の模索
- 概要:
①開放量子系の理論研究における近年のテーマの一つに,GKSL型マスター方程式の導出に要請される近似条件を緩めつつ,物理的に妥当なダイナミクスを記述できるかというものがある.
②本講演では,対象系と環境系との初期相関はないという条件のみを課し,二つの系の結合は弱くなく,環境系も時間発展するような場合を考える.
具体的な議論は可解な開放 Jaynes-Cummings 模型について行う.
この場合非マルコフ過程を記述するKraus表現から,CP性の条件が厳密に得られる.
③具体的な計算結果からの推論に加え,関連する重要な研究を幾つか紹介する.
特に,確率解釈に対応するとされるCPTP性を保証する時間発展についての議論を整理する.
A. Watanabe, and H. Nakazato, Ann. Phys. 441, 168890 (2022).
過去のセミナー (2022年度)
- 日時:2月28日(火)17:00-
- 講演者: 平野琢也さん(学習院大学)
- タイトル:EPRパラドックスと連続量量子鍵配送
- 概要:EPRパラドックスの実験的検証と連続量量子鍵配送に関する研究について紹介する。1935年のEinstien、Podolsky、Rosenによる量子力学の記述の不完全さを指摘した論文は、局所実在論と量子力学が両立できないことを示したものであり、エンタングルメントを核とする量子技術につながる非常に重要な議論であったと言える。EPRの議論は、連続量である位置と運動量に関するものであったが、スピンのような離散的な値を取る物理量に議論が拡張され、ベルの不等式の破れが実験的に検証されることにより、局所実在論が正しくないことが示されることになった。連続量量子鍵配送は、連続量である電場の直交位相振幅を測定する量子鍵配送である。本セミナーの後半では、連続量量子鍵配送の安全性に関する議論と実験について紹介する。
- 日時:1月30,31日(月,火)17:00-
- 講演者: 岩越 丈尚さん(法政大学)
- タイトル:量子鍵配送 -理論および実用の不完全性-
- 概要:量子鍵配送 (量子暗号)
は、実用化に最も近い量子技術として有望視されている。本講義では、上記に反して量子鍵配送の従来理論に足りない理論的知見と、実用的観点を説明する。そのために、ワンタイムパッドを発案したシャノンの理論から始まり、セキュリティの基本から量子鍵配送の中心的議論までを詳細に解説する。
- 日時:12月13日(火)17:00-
- 講演者: 勝部瞭太さん(東北大学)
- タイトル:機械学習を用いた時空の計量推定
- 概要:近年は物理学においても機械学習が盛んに利用されている。例えば重力波観測の分野では検出器に生じた雑音の検出や重力波の到達方向の推定などで機械学習が利用されている。
今回は時空の計量を粒子の運動の軌跡画像を用いて機械学習で推定できるかどうかについて、共同研究者のTam 氏、堀田 氏、南部 氏と行った研究[1]について発表する。[1]ではDeep Learning
isometryという概念を導入し、どのような計量が機械学習で推定するのが難しいかを調べている。また2+1次元AdSの宇宙定数、
Brown-Henneauxチャージの機械学習による推定の数値計算を行った。
セミナーの前半では一般相対論の基礎と機械学習の基礎について説明し、後半で[1]の内容を説明する。
[1] Deep learning metric detectors in general relativity, Ryota Katsube, Wai-Hong Tam, Masahiro
Hotta, and Yasusada Nambu, Phys. Rev. D 106, 044051 (2022).
arxiv版のリンク: https://arxiv.org/abs/2206.03006
- 日時:11月29日(火)17:00-
- 講演者: 三島萌登さん(東京大学)
- タイトル:少数コピーのアンサンブルからの効率的なエンタングルメント蒸留
- 概要:多数の不完全なエンタングルド状態から少数の純粋なEPR対を抽出するエンタングルメント蒸留は,初期状態のコピー数nが十分大きい漸近極限で多く研究されてきた.現在の技術ではエンタングルメント蒸留を実験的に行うことは難しいが,近年の技術の発展により比較的少ないコピー数では実際にエンタングルメント蒸留を行えるのではないかと期待されている.しかし,漸近極限で有効なプロトコルが小さいサイズのアンサンブルに対しても有効に働くとは限らない.今回の発表では,前半でエンタングルメント蒸留についてレビューを行い,後半では少数コピーのアンサンブルにおいても効率よくエンタングルメント蒸留を行うプロトコルを提案した論文[1]を紹介する.また,その提案手法に関して簡単な数値計算を行ったので,その結果についても紹介する.
[1]F. Riera-Sàbat, P. Sekatski, A. Pirker, and W. Dür, Phys. Rev. A 104, 012419(2021).
- 日時:11月22日(火)17:00-
- 講演者: Tomasz Młynikさん(University of Gdańsk, Poland)
- タイトル:Construction and characterization of 1-parameter (non)decomposable maps
- 概要:pdfファイル
- 日時:11月15日,12月6日(火)17:00-
- 講演者:Tan Van Vuさん(慶応大学)
- タイトル:熱力学的不確定性関係とその応用
- 概要:近年、ゆらぎ熱力学と量子熱力学の発展により、微小な非平衡系への理解は大きく進んでいる。その中、熱力学的不確定性関係(TUR)[1,2]は革新的な結果の一つであり、物理や生物などの様々な分野で注目を集めている。TURはカレントの精度と熱力学的コスト(エントロピー生成)のトレードオフを表す関係式であり、精度を上げるには散逸が必要であることを定量的に与える。TURは当初線形応答領域での定常状態マルコフ過程に対して導かれたが、現在では任意の時間依存駆動の下での一般的な初期状態に対して一般化され、量子コヒーレンスなどの量子効果を考慮する量子系にも拡張されている。そして、TURは理論的に重要なだけでなく(例えば、定常状態の熱機関の出力と効率の間のトレードオフや異常拡散の程度への示唆)、散逸の熱力学的推定にも応用されている。本セミナーの前半では、まずマルコフ過程に対するゆらぎ熱力学を簡単に紹介してから、TURのこれまでの発展とその証明・応用などを説明する。後半では、ゆらぎ定理のみから導出できる、適用範囲の広いTURの拡張[3]と量子コヒーレンス効果を表す量子系への拡張[4]について紹介する。
[1] A. C. Barato and U. Seifert, Phys. Rev. Lett. 114, 158101 (2015).
[2] T. R. Gingrich, J. M. Horowitz, N. Perunov, and J. L. England, Phys. Rev. Lett. 116, 120601
(2016).
[3] Y. Hasegawa and T. Van Vu, Phys. Rev. Lett. 123, 110602 (2019).
[4] T. Van Vu and K. Saito, Phys. Rev. Lett. 128, 140602 (2022).
- 日時:10月25日, 11月1日(火)17:00-
- 講演者:中平健治さん(玉川大学)
- タイトル:広義量子論の再構築
-
概要:標準的な量子論の原理は直観的にわかりやすい言葉では書かれていない。フォン・ノイマンによって複素ヒルベルト空間に基づいた量子論の公理化が行われたが,この空間自体は抽象的な数学の概念であり,直観的であるとはいい難い。これに対し,2000年頃から情報理論に基づく原理から量子論の数学的構造を導くための研究が盛んに行われてきた。近年では,操作的確率論(または一般確率論)に対していくつかの操作的・確率的な言葉で書かれた要請を追加することで有限次元系の量子論を導けることが示されている[1,2]。一方,特に量子情報理論などでは,古典系を含むような量子論(超選択則付き量子論,以下では広義量子論)を研究対象とする場合が少なくなく,これに伴い広義量子論の数学的構造を導くための研究が進められてきた。しかし,操作的・確率的な要請のみから広義量子論を導出するには至っていなかった。この主要因としては,広義量子論は量子論と比べて複雑な数学的構造をもっており,従来の導出法を広義量子論の導出に用いることが困難であることが挙げられる。以上の背景のもと,操作的確率論と4個の操作的・確率的な要請から有限次元系の広義量子論を導けることを示せたため[3],本セミナーにてその成果を紹介する。1日目では,広義量子論の数学的構造を示した後,操作的確率論について説明する。2日目では,広義量子論を導出するために用いた4個の要請と導出法の概要を説明する。なお,本発表の内容は文献[4]で詳しく述べている。
[1]G. Chiribella et al., "Informational derivation of quantum theory", Phys. Rev. A 84(1), 012311
(2011) [arXiv:1011.6451].
[2]L. Hardy, "Reformulating and reconstructing quantum theory", arXiv:1104.2066 (2011).
[3]K. Nakahira, "Derivation of quantum theory with superselection rules", Phys. Rev. A 101(2),
022104 (2020) [arXiv:1910.02649].
[4]中平健治, 図式と操作的確率論による量子論(森北出版, 2022)およびWeb補遺 [https://www.morikita.co.jp/books/mid/017061].
- 日時:10月11日(火)17:00-
- 講演者:中嶋慧さん(三重大学)
- タイトル:量子開放系におけるスピード限界:エントロピー生成とトレース距離
- 概要:近年、スピード限界の研究が盛んに行われている。量子孤立系でのスピード限界は、
Mandelstam-Tammの関係式[1]をはじめとして、半世紀以上にわたり研究されてきた。近年、白石ら[2]などの研究により、古典系でもスピード限界が成り立つことが明らかになった。それを受け、論文[3,4]でGKSL量子マスター方程式に従う系でのスピード限界が研究された。
Vu・長谷川[4]は、全エントロピー生成についての下限を距離d_Tとアクティビティを用いて与えた。ここでd_Tは初期状態と終状態との間の距離で、初期状態,
終状態の密度演算子の固有値によって測られる。そのため、異なる状態間でd_Tがゼロになることがある。また、d_Tは量子コヒーレンスを測ることができない。
我々は、全エントロピー生成についての下限を、相互作用描像でのトレース距離と変形されたアクティビティを用いて与えた[5]。相互作用描像でのトレース距離はd_Tより小さくなることはないため、我々のバウンドはVu・長谷川のものより良くなり得る。
本講演では、まず論文[1-4]をレビューする。その後、我々の結果[5]を紹介し、最後に導出を解説する予定である。
[1]L. Mandelstam and I. Tamm, J. Phys. (Moscow) 9, 249 (1945).
[2]N. Shiraishi, K. Funo and K. Saito, Phys. Rev. Lett. 121, 070601 (2018).
[3]K. Funo, N. Shiraishi and K. Saito, New J. Phys. 21, 013006 (2019).
[4]T. V. Vu and Y. Hasegawa, Phys. Rev. Lett. 126, 010601 (2021).
[5]S. Nakajima and Y. Utsumi, New. J. Phys. 24, 095004 (2022).
- 日時:8月2日(火)17:00-
- 講演者:宮崎慈生さん(福井県西方寺)
- タイトル:複素共役・転置と量子推定理論
- 概要:量子状態に対する転置は完全正写像でない正写像であり、その境界的立ち位置ならではの利用方法がある。本セミナーでは、量子推定理論によって複素共役・転置の性質を理解し、応用する研究を紹介する。
始めに複素共役・転置の代数的性質をまとめる。
複素共役・転置が実装できると仮定すると、量子推定の精度を上げられる。例えば、反並行スピンからの方が平行スピンからよりもブロッホベクトルを精度よく推定できることが知られている[1]。この先行研究を主軸に、関連した研究を紹介する。
紹介した先行研究を利用して、特定の量子推定精度が状態コピー数に対して非単調に変化することを示し[2]、既知の非単調性[3,4]との違いを考察する。
参考情報:
[1] Gisin, N., Popescu, S., 1999. Spin Flips and Quantum Information for Antiparallel Spins. Phys.
Rev. Lett. 83, 432–435. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.83.432
[2] Miyazaki, J., 2020. arXiv preprint at https://doi.org/10.48550/arXiv.2005.06685
[3] Audenaert, K.M.R., et. al., 2007. The Quantum Chernoff Bound. Phys. Rev. Lett. 98, 160501.
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.98.160501,
[4] Maziero, J., 2015. Non-monotonicity of trace distance under tensor products. Braz. J Phys. 45,
560–566. https://doi.org/10.1007/s13538-015-0350-y
- 日時:7月19日(火)17:00-
- 講演者:布能謙さん(分子研)
- タイトル:開放系の量子速度限界
- 概要:量子速度限界(quantum speed
limit)とは、量子操作に必要な時間の下限を与える普遍的な不等式であり、ハイゼンベルクの時間・エネルギー不確定性関係の厳密な定式化と捉えることもできる。量子速度限界はこのように、量子力学の基本原理に密接に関係した関係式であり、システムに依存しないユニヴァーサルな関係式であるため、量子計算、メトロロジー、量子最適制御、量子熱力学といった、様々な分野に応用されてきた。
本セミナーでは、量子速度限界について、量子状態の幾何学というキーワードをベースにして紹介する。そして、実際の系への応用で重要な、環境の影響を取り入れた量子開放系へと量子速度限界を拡張した我々の仕事を紹介する[1]。特に、操作時間の下限を与える量を量子熱力学で現れる物理的な量や、幾何学的な意味を持つ量と結びつけることで、量子操作のスピードがどのような量によって制限されるかを議論する。ここで表れる幾何学的な意味を持つ量は、断熱過程のショートカットと呼ばれる有限時間量子制御手法で用いられる制御ハミルトニアンと密接に関係している。そのため、もし時間に余裕があれば、断熱過程のショートカットの簡単な解説と、その熱力学的なコストを特徴づける量子速度限界に関する研究についても紹介する[2]。
参考情報:
[1] K. Funo, N. Shiraishi, K. Saito, New J. Phys. 21, 013006 (2019)
[2] K. Funo, et. al., PRL 118, 100602 (2017).
- 日時:7月12日(火)17:00-
- 講演者:鈴木淳さん、福田優太朗さん(電気通信大学)
- タイトル:Introduction to Quantum Information Geometry and its Application to Qutrit system
- 概要:本セミナーは二部からなる。
前半(鈴木担当)では、まず双対平坦構造を持つ古典情報幾何学を簡単に紹介し、その後量子情報幾何学の簡単な入門を行う。本発表では、量子情報幾何を量子パラメータ推定問題の観点から解説することを目的としている。リーマン計量としては近年解析が進められている1パラメータ族の計量に焦点を当てる。
後半(福田担当)では、Blochベクトルを用いた量子情報幾何の定式化を紹介する。具体的な例として、量子2準位系(qubit)と量子3準位系への適用を議論する。特に量子3準位系については、2パラメータ部分モデルの性質について詳しく解説する予定である。
参考情報:
S.-I. Amari and H. Nagaoka, Methods of Information Geometry (AMS, 2000).
J. Suzuki, Explicit formula for the Holevo bound for two-parameter qubit-state estimation problem,
J. Math. Phys., vol. 57, 042201 (2016).
J. Suzuki, Information Geometrical Characterization of Quantum Statistical Models in Quantum
Estimation Theory, Entropy vol. 21, 703 (2019).
J. Suzuki, Non-monotone metric on the quantum parametric model, Eur. Phys. J. Plus. vol. 136, 90
(2021).
K. Yamagata, Maximum logarithmic derivative bound on quantum state estimation as a dual of the
Holevo bound, J. Math. Phys., vol. 62, 062203 (2021).
- 日時:6月22日(水)17:00-
- 講演者:湯浅一哉さん(早稲田大学)
- タイトル:Universal bound for various limit evolutions: from Adiabatic to Zeno
- 概要:量子制御や量子デバイスのモデリング,量子シミュレーションなど様々な場面において,量子断熱定理や回転波近似,Trotter-Suzuki の積公式,量子 Zeno
極限など様々な近似手法,極限定理が用いられている.本セミナーでは,これらの近似,極限定理を統一的に扱い証明するとともに,誤差評価を明示的に与えることができるシンプルな不等式を提示する.それに基づいて回転波近似を証明し誤差評価を与えるとともに,様々なタイプの量子断熱定理や積公式,いくつかの量子
Zeno 極限,さらにはそれらを拡張した定理を証明できることを紹介する.
参考情報:
Daniel Burgarth, Paolo Facchi, Giovanni Gramegna, and Kazuya Yuasa
"One bound to rule them all: from Adiabatic to Zeno"
Quantum (accepted) [arXiv:2111.08961 [quant-ph]]
https://arxiv.org/abs/2111.08961
- 日時:6月7日(火)17:00-
- 講演者:北島雄一郎さん(日本大学)
- タイトル:量子力学の解釈とハイティング代数
- 概要:量子力学において隠れた変数は存在するかという議論は昔から多くなされてきた。隠れた変数は存在しないという結果の一つとして、コッヘン・シュペッカーの定理がある。この定理によれば、量子力学における観測命題すべてに対して1と0(真と偽)を同時に割り当てることができない。
しかし、観測命題の一部のみには1と0を同時に割り当てることが可能である。BubとClifton
[1]は、どの観測命題に対して1と0を同時に割り当てることができるかと考えるかに応じて、量子力学の解釈は分類されると考えた。このような解釈の試みでは、特定の観測命題に注目することになる。
一方、DöringとIsham[2]は特定の観測命題にのみ注目するのではなく、測定の文脈ごとの観測命題への値の割り当てに注目し、それらの関係を調べた。通常の量子論において観測命題はオーソモジュラー束をなし分配則が成立しないが、彼らの試みでは分配則が成立するようなハイティング代数、つまり直観主義論理が現れる。このハイティング代数はもとのオーソモジュラー束の元に対応する元を必ず含むことが示されているが、もとのオーソモジュラー束の元に対応しないような元を含むこともある。
本発表では、上で述べた量子力学の解釈の試みを簡単に述べた後、DöringとIshamによる試みの基本的な枠組みと、オーソモジュラー束の元に対応しないような元がこのハイティング代数に含まれる条件[3]を紹介する。
参考情報:
[1] J. Bub and R. Clifton. A uniqueness theorem for `no collapse'
interpretations of quantum mechanics. Studies in History and
Philosophy of Science Part B: Studies in History and Philosophy of
Modern Physics, 27(2), 181-279, 1996.
[2] A. Döring and C. Isham. “What is a thing?”: Topos theory in the
foundations of physics. In New Structures for Physics, 753–937.
Springer, 2010.
https://arxiv.org/abs/0803.0417
[3] Y. Kitajima. Negations and meets in topos quantum theory.
Foundations of Physics, 52(1), 2022.
https://arxiv.org/abs/2111.15226
- 日時:5月24日(火)17:00-
- 講演者:谷村省吾さん(名古屋大学)
- タイトル:局所物理量としての確率、ついでにカルロ・ロヴェッリの関係量子力学
- 概要:確率とは何か?確率は何を表しているのか?確率は主観的指標なのかそれとも客観的な対象なのか?といった疑問は、物理学者や哲学者に限らず誰しも一度は抱いたことがあるのではないだろうか。
質量や電荷や電場などの物理量は「これの」や「ここの」という指示や測定が可能であるという意味で「局所的」な概念であるし、長さや時間も「ここからそこまで」とか「この事象とあの事象の間の」というように理想的には時空の2点関数として局限できる概念だと思われる。ところが、「石の質量が石に備わっているようなやり方で、サイコロを振って3の目が出る確率は、サイコロの3の面に載っている物理量なのか?」と問われると、「そういうものではないだろう、確率は時空中のどこそこのと言えるような数量概念ではなく、時空を超越した概念なのだろう」と私は思っていた。しかし、代数的場の量子論の立場で考えると、少なくとも、物理量の値の出現確率は時空局所的概念だと言った方がよい、というのが私の最近の考えである。そういった観点から見れば、EPRパラドクスの「ここで観測したことが瞬時に遠方の粒子の状態(確率分布)を変える」といった「不気味な遠隔作用」に惑わされる必要はない、ということを論じたい。
ところで最近、カルロ・ロヴェッリ(Carlo Rovelli) の物理学関連の本の人気が高いようだが、彼が1996年頃から唱えている関係量子力学(Relational Quantum
Mechanics) が気になるので、ついでながら、彼の説を紹介し批評したいと思う。
[1] 谷村省吾『相対論的量子測定理論はどのようなものであるべきか』第5回QUATUO研究会、2016年1月、高知工科大学にて
http://www.sceng.kochi-tech.ac.jp/koban/quatuo/lib/exe/fetch.php?media=%E7%AC%AC5%E5%9B%9Equatuo%E7%A0%94%E7%A9%B6%E4%BC%9A:quatuo2015_tanimura.pdf
[2] ドナルド・ギリース(中山智香子 訳)『確率の哲学理論』日本経済評論社 (2004)
[3] Carlo Rovelli, Relational Quantum Mechanics, Int. J. of Theor. Phys. Vol.35, p.1637- (1996).
https://arxiv.org/abs/quant-ph/9609002v2
[4] カルロ・ロヴェッリ(冨永星 訳)『世界は「関係」でできている』NHK出版 (2021)
- 日時:5月10日(火)17:00-
- 講演者:市川翼さん(大坂大学)
- タイトル:量子力学におけるベイズ主義と相対頻度
- 概要:量子力学の公理は測定者の存在が前提とされている。このことは実用上は全く問題はないが、古典力学と量子力学を分かつ端的な特徴であることは、Heisenbergなどによってもたびたび指摘されてきた。
この特徴に注目した近年の量子基礎論での試みとして量子ベイズ主義がある。簡単にいえば、ベイズ主義は確率を「与えられた現象が実現すると個人がどのくらい信じているかの尺度」と捉える主義である。量子ベイズ主義は、この態度を継承し、量子確率を測定者の信念尺度であると理解しようとする試みである。
ここで問題としたいのは、量子ベイズ主義でどの程度量子確率や関連事項を説明できているかと言うことである。量子ベイズ主義の基盤となった仕事のひとつであるイタリアの数学者Bruno de
Finettiによる主観確率論は確率のみならず、条件付き確率や相対頻度についてもベイズ主義による一元論的理解が一定程度可能であることを示唆している。量子力学に対しても、de
Finetti流のベイズ主義による一元論的理解は果たしてどの程度可能なのであろうか。
本講演では、上記の問題意識のもと、講演者の近年の仕事も含め、Bruno de Finettiの仕事や量子ベイズ主義の基礎的な部分をお話ししたい。
- 日時:4月26日(火)17:00-
- 講演者:野神亮介さん(名古屋大学)
- タイトル:李・筒井の不確定性関係を利用した渡辺・沙川・上田の不等式の導出
- 概要:不確定性関係は量子論において古くから議論されてきたテーマであり, 様々な種類の不確定性関係が存在する. 近年,
李と筒井が新しく提案した不確定性関係[1]は幾何学的な手法によって定式化されているが, すでに知られていた多くの不確定性関係を系として包含していて,
不確定性関係の普遍的な数学的構造があることを示唆するものである. 一方, 推定理論の観点から定義された測定誤差についての不確定性関係として渡辺・沙川・上田の不等式[2]がある. 本研究では,
李・筒井の枠組みを不偏推定量に制限することで渡辺・沙川・上田の不等式を系として含む不等式を導出できることを示した.
本セミナーでは, まず, 簡単に推定論の準備を行なってから渡辺らの結果について説明する. 次に, 李らの結果の概要を述べたのち, 本研究の内容について説明する. 最後に,
本研究の一般化にあたると考えられる李氏の結果[3]について言及する.
[1] Jaeha Lee and Izumi Tsutsui. Uncertainty relation for errors focusing on general povm
measurements with an example of two-state quantum systems. Entropy, Vol. 22, No. 11, p. 1222, 2020.
[2] Yu Watanabe, Takahiro Sagawa, and Masahito Ueda. Uncertainty relation revisited from quantum
estimation theory. Physical Review A, Vol. 84, No. 4, p. 042121, 2011.
[3] Lee, Jaeha. A Universal Formulation of Uncertainty Relation for Errors under Local
Representability. arXiv preprint arXiv:2203.08197 (2022).
- 日時:4月12日(火)17:00-
- 講演者:皆川慎太朗さん(名古屋大学)
- タイトル:一般確率論におけるエントロピーの熱力学的な考察
- 概要:フォン・ノイマンエントロピーは量子情報理論において重要な役割を果たす量であるが、歴史的には熱力学の観点から導入された。フォン・ノイマンは、半透膜を使って混合状態を純粋状態に分解する等温過程を考え、この際に必要な仕事を利用して量子状態のエントロピーを定めた[1]。
フォン・ノイマンの議論は密度演算子のスペクトル分解を前提としている。我々は、状態や測定が操作的に定義された一般確率論の枠組みを利用し、フォン・ノイマンの議論を操作的に再構成した。そして、スペクトル分解がなくとも、熱力学第二法則から帰結するエントロピーの性質について考察した[2]。本セミナーでは、一般確率論におけるエントロピーについて議論することを目的とする。まず、量子論を通して一般確率論の導入を行う。そして、一般確率論のエントロピーに関する先行研究[3-6]について紹介した後、我々の結果[2]について説明する。
[1] J. von Neumann, Mathematical foundations of quantum mechanics, Princeton university press,
(1955).
[2] S. Minagawa, H. Arai, and F. Buscemi, arXiv:2203.05258, (2022).
[3] G. Kimura, K. Nuida, and H. Imai, Reports on Mathematical Physics 66, 175 (2010).
[4] A. J. Short and S. Wehner, New Journal of Physics 12, 033023 (2010).
[5] H. Barnum, J. Barrett, L. O. Clark, M. Leifer, R. Spekkens, N. Stepanik, A. Wilce, and R. Wilke,
New Journal of Physics 12, 033024 (2010).
[6] G. Kimura, J. Ishiguro, and M. Fukui, Phys. Rev. A 94, 042113 (2016).
過去のセミナー (2021年度)
- 日時:3月14日(月)17:00-
- 講演者:小金澤亮祐さん(auカブコム証券株式会社)
- タイトル:de Broglie-Bohm理論の基礎と近年の進展
- 概要:コペンハーゲン解釈や多世界解釈などに代表されるように,量子論の解釈は実に様々なものがある.本講演ではいわゆる「隠れた変数理論」の一つであるde
Broglie-Bohm理論の概略を,特にその基礎的な部分に焦点を当てて説明する.de
Broglie-Bohm理論と一口に言っても,パイロット波理論だったりボーム力学だったりと,歴史的な事情もあるとはいえ呼称からして統一されていない程度には議論が散らかっている.そこで,近年の流れのうち,私がくみ取れた範囲内で妥当だと思われる事柄について話したい.
- 日時:2月28日(月)17:00-
- 講演者:松久勝彦さん(モイ株式会社)
- タイトル:プランク定数再考
- 概要:プランク定数は量子力学的スケールを特徴づける値として様々なところに出現する、重要な物理定数である。しかしながら、量子力学それ自体のプランク定数の動機付けは曖昧である。量子力学の定式化はそれ自体活発な分野だが、その純理論的ないくつかはプランク定数に言及すらしていない。本セミナーでは、量子系、古典系の省察と、およびそれらのハイブリッド理論のサーベイを通して、プランク定数の理論的(非歴史的?)な起源について議論したい。
- 日時:2月14日(月)13:00-
- 講演者:堀田昌寛さん(東北大学)
- タイトル:観測者の意識は量子ゼノン効果を起こさない。
- 概要: 実証科学の観点からは、量子力学は情報理論の一種に過ぎず、前世紀に論じられていた観測問題も存在していない。しかし観測者の意識と観測問題とを絡めて、様々な場で量子ゼノン効果が取り上げられることが現在でも多い。つまり観測者の意識が対象の量子系を連続的に見続けるだけで、対象系の運動が凍結する現象だという間違った説明が散見される。本講演では、ごく当たり前な条件のもとで、観測者の意識の「見る」という行為に対応する間接測定が、いかなる影響も対象量子系の運動に与えないことを、通常の量子力学で証明していく。
- 日時:1月11日(火),12日(水)17:00-
- 講演者:白石直人さん(学習院大学)
- タイトル:孤立した量子多体系の熱平衡化の数理:
- 概要:
マクロな量子多体系において、初期状態を非平衡状態に対応するような純粋状態にとり、この孤立系のシュレディンガー方程式に従ってユニタリ時間発展させる状況を考える。この設定で系が平衡状態に緩和するならば、この系は熱平衡化したという。ほとんどのマクロ系は熱平衡化することが経験的に知られている一方、可積分系など一部の量子多体系は熱平衡化しないことも知られている。熱平衡化はなぜ起こるのか、熱平衡化の有無を決める性質は何なのか、という問題は重要な未解決問題であり、活発に研究されている。
本セミナーでは、まず1日目に熱平衡化に関する先行研究の結果のレビューを行い、続けて2日目に私の結果について説明する。1日目には、熱的状態や熱平衡化の定義から初めて、マクロ系の平衡状態の典型性[1]、物理量が緩和を示すことの証明[2]、固有状態熱化仮説(ETH)[3-5]やランダムハミルトニアンにおけるETH[6]などといった、熱平衡化に関する基礎的な結果を概観する。
続けて2日目には、私の結果を二つ紹介する。これまで、「非可積分系においてはETHが満たされている」ということが予想されていた。これに対し私は、ETHを破る非可積分系を系統的に構成する方法を提案し、この予想を否定的に解決した[7,8]。この構成法で作られた系の特異的な熱平衡化過程も含めて説明する。続けて、理論計算機科学の手法を用いることで、「熱平衡化の有無を決める一般的な方法は存在しない」という熱平衡化の決定不能性を示すことに成功した[9]ので、それについても説明する。まず理論計算機科学の簡単なレビューを行い、その後に決定不能性を証明する。
- 日時:12月13日(月)17:00ー
- 講演者:荒井駿さん(名古屋大学)
- タイトル:一般確率論における合成系の非一意性の問題と状態識別性能によるアプローチ
- 概要:近年,量子論と情報理論の関係が解明されてきたことで,情報理論的なアプローチによる量子論の基礎付けの試みが注目されている.
その1つに一般確率論(General Probabilistic Theories)があり,すでに多くの示唆的な結果が報告されている.
特に重要と考えられている結果に,合成系の非一意性の問題がある.これは,系に対する自然な操作的要請だけでは合成系の構造は一意に定まらないという問題であり,量子系の場合に適用すると,量子合成系のエンタングルメントのクラスが決定されないことを意味する.そこで,量子合成系の構造を決定する自然な物理原理が何なのか研究されているが,未だ決定的な解答はない状況である.
本セミナーでは,合成系の非一意性の問題について,部分的な成果を多く残している状態識別性能に関する成果を中心に,数学的な手法にも踏み込んで紹介する.一般確率論の合成系の問題で用いられる数学的手法は,entanglement
witnessの解析と密接に関係している.そのため,通常の量子情報理論への応用も存在し,そのような結果も紹介する.
- 日時:11/29(月)17:00-
- 講演者:杉田歩さん(大阪市立大)
- タイトル:弱結合量子スピン系に対するマスター方程式と非平衡定常状態
- 概要:
熱流のある非平衡定常状態では、熱流と温度勾配が比例するというフーリエ則が通常成り立っている。しかし、理論的に簡単なモデルを取ると温度勾配は消失することが多く、フーリエ則の成立条件については完全には分かっていない。フーリエ則が成立するためにはカオス性(非可積分性)が必要であると一般に良く言われるが、それが正しいとすると、温度勾配を持つ正常な定常状態を解析的に調べることは非常に困難になってしまう。
このセミナーでは、温度勾配を持つ定常状態を調べるための設定として、系内部の相互作用を弱くする極限に注目する。この極限ではある程度解析的に系を分析することができる。特に、既存の結果と異なる温度勾配の存在条件や、非平衡系特有の相関についての相互作用の詳細に依らない普遍的な関係式を示すことが出来る。
また、この非平衡定常状態を記述するための道具として量子マスター方程式を用いるが、ここで使うのは一般的なGKLS(Gorini–Kossakowski–Lindblad-Sudarshan)型ではなく、Redfield型と呼ばれるものである。このマスター方程式の選択理由と導出方法についても詳しく説明したい。
- 日時:11月15日(月)17:00-
- 講演者:上西慧理子さん(慶応義塾大学)
- タイトル:量子コンピュータを用いた変分量子アルゴリズムの解析
- 概要:現在開発されている量子コンピュータは、誤り訂正機能はないが数百量子ビット程度で構成されるNoisy Intermediate-Sclae
Quantum(NISQ)デバイスと呼ばれるものである。変分量子アルゴリズムは、量子と古典のハイブリットアルゴリズムの一例で、エネルギーを最小とする状態を探索するアルゴリズムである。この変分量子アルゴリズムの最適化過程における課題として、局所解トラップ問題や、エネルギーの期待値を測定するために非常に多くの測定回数を必要とする問題が指摘されている。量子コンピュータの実機を使うという設定においては、測定回数が必ず有限であるために、各ステップにおけるパラメータ更新則は確率的になる。つまり、勾配法の場合、確率的勾配法が自然に導かれる。一方で、古典の機械学習では確率的勾配法が頻繁に用いられており、効率的に計算出来、かつ良い解に収束することや、局所解問題に関する先行研究が知られている。本セミナー発表では、測定回数を敢えて少なくとる方針のもと変分量子アルゴリズムを実装することで局所解トラップ問題や測定コストを軽減する実例の紹介や、確率的勾配法を確率微分方程式として取り扱い、理論的に解析する方法について紹介する。
- 日時:10月25日(月)17:00-
- 講演者:杉山太香典さん(東大先端研、JSTさきがけ)
- タイトル:量子演算精度評価の現状と課題
- 概要:量子コンピュータの実用化において、量子ビット数の大規模化と並行して量子演算の高精度化が必要となっている。高精度化の試みは、実装精度の評価とその結果を用いた較正を繰り返すことによって行われる。精度評価手法には量子トモグラフィやランダマイズドベンチマーキングなど様々な手法が提案され実験でも使用されているが、どの手法にも長所と短所があり、より優れた手法の開発が必要となっている。本セミナーの前半では、量子コンピュータの実用化、特に大規模な量子誤り訂正の実現に向けて、実装精度の評価手法が現在抱えている課題について概説する。後半では、それらの課題解決に向けた試みとして、講演者の近年の量子トモグラフィに関する研究成果を紹介する。
- 日時:10月4日(月)17:00-
- 講演者:全卓樹さん(高知工科大)
- タイトル:自己共役演算子と1次元クーロン問題
- 概要:量子力学における特異ポテンシャル問題を扱うための関数解析的手法を概観したのち、その応用として1次元水素のスペクトル問題を取り扱う。1次元クーロン・ポテンシャルの発散点における状態ベクトルの接続条件は3パラメータ族で記述され、これが一般的な非リドベリースペクトルを与えることが示される。さらにこの一般的な接続条件を物理的に実現するための有限近似手法が与えられる。
- 日時:9月27日(月)17:00-
- 講演者:鶴丸豊広さん(三菱電機)
- タイトル:量子暗号II(量子暗号の安全性証明)
- 概要:量子暗号の安全性証明について基礎から解説する。まず前回のおさらいとして、量子暗号の概要を手短に説明する。
つづいて安全性の考え方、及びその証明方法について解説する。とくに、安全性証明で広く用いられている2種類の数学的手法(Shor-Preskill流, Renner流)が実は等価であることを示す.
- 日時:9月20日(月)17:00-
- 講演者:田島裕康さん(電気通信大学・JSTさきがけ)
- タイトル:有限時間量子熱機関の性能限界と、その上へのコヒーレンスの影響
- 概要:有限時間量子熱機関の性能限界と、その上へのコヒーレンスの影響
概要:近年、有限時間プロセスにおける熱力学第二法則のrefinement と、そこから導かれる有限時間で動作する熱機関の性能限界に関する研究が活発に行われている。
本講演では、有限時間で動作する量子熱機関の性能限界[1,2]をMarkov、non-Markov双方について解説する。また、Markovな量子熱機関の性能限界を表す散逸と熱流のトレードオフについて、コヒーレンスがどのように影響するかについても概説し、コヒーレンスの種類によって熱機関性能に与える影響が全く異なること、適切な状況ではこのトレードオフが実効的に無効化され、有限時間のカルノー効率が近似的に実現できることを示す[3]。
[1] N. Shiraishi, K. Saito, H. Tasaki, Phys. Rev. Lett. 117, 190601 (2016) (古典); N. Shiraishi, K.
Saito J. Stat. Phys. 174, 433 (2019) (古典及び量子)
[2] N. shiraishi, H. Tajima, Phys. Rev. E 96, 022138 (2017)
[3] H. Tajima, K. Funo, arXiv:2004.13412 (2020)
- 日時:9月6日(月)17:00-
- 講演者:鶴丸豊広さん(三菱電機)
- タイトル:量子暗号I(量子暗号の基礎)
- 概要:量子暗号について解説する。量子暗号の目的や構成、適用事例について基礎から説明したのち、安全性証明の理論の概要についても解説する。
- 日時:8月27日(金)17:00-
- 講演者:Martin Plávala(Siegen Univ.)
- タイトル:Entangleability of Operational Theories and Cones
- 概要:Entanglement is a key resource in quantum theory, which is necessary for violations of Bell
inequalities, quantum teleportation, and other important features of quantum theory. It is hence an
important question in foundations of quantum theory to ask whether entanglement is a special feature
of quantum theory, or whether it is also present in other operational theories. The operational
theories we have in mind here are known as GPTs. GPTs contain some operational features of quantum
theory, such as the possibility to mix pure states into mixtures, but GPTs do not use the formalism
of Hilbert spaces, which is specific to quantum theory.
We show that entanglement exists in any non-classical operational theory, meaning that there always
are entangled states, or entangled measurements (or both) in the joint system of two GPTs. In terms
of the underlying cones, we solve a long-standing conjecture by Barker about tensor products of
convex cones. The proof involves a mix of convex geometry, elementary algebraic topology, and an
CHSH-like inequality.
- 日時:7月19日(月)15:00-
- 講演者:Francesco Buscemi(名大)
- タイトル:Entanglement and Bell nonlocality: an operational unifying framework
- 概要:I show how a simple extension in the definition of nonlocal games provides a nice framework for
an operational theory bridging between quantum entanglement and Bell nonlocality.
- 日時:7月5日(月)17:00-
- 講演者:李宰河さん(東大)
- タイトル:不確定性関係の発展と新たな普遍的定式化
- 概要:前世紀の Heisenberg の提唱 [1] になる不確定性原理は、その標準的な定式化である Kennard と Robertson による量子状態の不確定性関係 [2-3]
に始まり、現在に至るまで様々な関係や定式化が提案されている。今回の講演では、量子測定に係る不確定性関係の歴史的発展について、幾つかの主要な定式化 [4-6]
を軸に、そのやさしい概説を行う。また、最近の動向の一例として、その新たな普遍的定式化 [7]
を紹介し、これを幾何学の言葉を用いて解説する。とりわけ、本定式化が幾つかの代表的な定式化をその系として導くことに加え、更に、量子状態の不確定性関係をその特別な場合として包含することを見ることで、これらの従来の定式化を新たな広い視点から振り返る。時間や状況が許せば、既存の定式化との比較を通して、本定式化が具える操作的観点からの概念的整合性や、不等式としての数学・技術的優位性など、その特徴の一部を簡単に紹介し、また各種の不確定性の統一的理解における展開についても触れたい。
[1] W. K. Heisenberg, Z. Phys. 43, 172–198 (1927).
[2] E. H. Kennard, Z. Phys. 44, 326 (1927).
[3] H. P. Robertson, Phys. Rev. 34, 163 (1929).
[4] E. Arthurs and J. L. Kelly Jr., Bell Sys. Tech. J. 44, 725 (1965); E. Arthurs and M. S. Goodman,
Phys. Rev. Lett. 60, 2447 (1988).
[5] M. Ozawa, Phys. Rev. A 67, 042105 (2003); M. Ozawa, Phys. Lett. A 320, 367 (2004).
[6] Y. Watanabe, T. Sagawa, and M. Ueda, Phys. Rev. A 84, 042121 (2011); Y. Watanabe and M. Ueda,
arXiv:1106.2526 (2011).
[7] J. Lee and I. Tsutsui, arXiv:2002.04008 (2020).
- 日時:6月14日(月)17:00-(第一回目),6月22日(火)17:00-(第二回目)
- 講演者:山中由也さん(早稲田大学)
- タイトル:確率過程入門とNelson確率過程量子化
- 概要:確率過程の知識を前提せずにNelson確率過程量子化を解説することを目指す。講演は2回に分けて行う。
第1回は、random
walk、Brown運動から始めて確率過程の基礎を平易に解説する。内容にはLangevin方程式やFokker-Planck方程式が含まれる。最後にNelson確率過程量子化の導入を行う。
第2回では、Nelson確率過程量子化の方程式群と時間依存Schrödinger方程式の同等性を示す。Nelson確率過程で実際に数値計算をする手法をまとめる。応用例として、トンネリング時間の計算を紹介する。またNelsonの方法をスピン自由度を持つ系への拡張なども議論する。
- 日時:5月31日(月)17:00-
- 講演者:中田芳史さん(東大)
- タイトル:古典・量子ハイブリッド情報の量子誤り訂正:量子通信路符号化に向けて
- 概要:
量子情報処理を実装するためには、量子系で不可避におこるノイズを実効的にキャンセルする枠組み、つまり、量子誤り訂正が必要不可欠である。量子誤り訂正の原理限界を与える定理が「量子符号化定理」である。量子誤り訂正は「ノイズから守るべき情報が古典か量子か」、また、「使えるリソース(例えばエンタングルメント)の有無」などで様々なシナリオが考えられる。長年の精力的な研究によって様々なシナリオにおける量子符号化定理が得られてきたが、本発表では「量子的なノイズから古典情報と量子情報を同時に守るシナリオ」を考え、その符号化定理をワンショットと呼ばれる枠組みで与える。
発表自体は「初学者でも分かる!」を(とても高い)目標として、量子誤り訂正の基礎的な話から始めて、この分野の重要な概念である「デカップリング」のチュートリアルを行いつつ、出来るだけ教育的に進めたいと考えている。
本発表の元となる結果は電通大の若桑さん・ウィーン大の山崎さんと得た結果で、以下の二本の論文にまとめられているので、必要に応じて参照されたい。
・Randomized Partial Decoupling Unifies One-Shot Quantum Channel Capacities, E. Wakakuwa and YN,
(https://arxiv.org/abs/2004.12593)
・One-shot quantum error correction of classical and quantum information: towards demonstration of
quantum channel coding, YN, E. Wakakuwa, and H. Yamasaki (https://arxiv.org/abs/2011.00668)
- 日時:5月17日(月)17:30-
- 講演者:浅香諒さん(東京理科大学)
- タイトル:量子ウォークを用いた量子ランダムアクセスメモリ
- 概要:
量子コンピュータを用いて大量の情報の並列演算を行うためには,前準備としてそれらの情報を量子的に重ね合わせる操作(情報エンコーディング)が求められる.本セミナーでは,記憶媒体中に書き込まれた大量の情報を高速にエンコードする機構として,最近我々が提案した量子ウォークによる量子ランダムアクセスメモリ(QRAM:
Quantum Random Access Memory)[1]を解説する.二分木の終端のそれぞれにメモリセルを繋ぐことで QRAM が構成される.情報を運搬するための役割の
担い手として left もしくは rightに対応するカラーを持つ量子ウォーカーを導入し,これを用いて最大で$N$個の情報を$O(\log N)$の時間でエン コードする.
[1]https://iopscience.iop.org/article/10.1088/2058-9565/abf484
- 日時:4月26日(月)17:00-
- 講演者:松浦孝弥さん(東大)
- タイトル:ヘテロダイン測定を用いたコヒーレント状態との忠実度推定
- 概要:
実験的に生成された量子状態を厳密に推定することは,多くの量子情報処理において不可欠である。有限次元量子系では量子状態トモグラフィをはじめとして量子状態をキャラクタライズする方法が数多く知られているが、空間中を伝搬する光のような無限次元量子系として記述される量子系においては、素朴な方法では量子状態の推定に無限回の実験が必要となってしまう。それを回避するために光子数の空間にカットオフをいれ、次元の大きな有限次元量子系として扱うのが標準的な手法であり、通常量子光学実験で扱うような微弱な光に対しては十分正確な結果を得られるが、量子鍵配送等の被測定量子状態に対してなんら仮定をつけられない量子情報処理の分野では、この取り扱いは不十分である。
我々は、実験的に生成された量子状態と任意のコヒーレント状態との忠実度の上界・下界を有限回のヘテロダイン測定で推定する手法を見出した。コヒーレント状態は可分ヒルベルト空間の完全系をなすため、この手法は実験の繰り返し回数を重ねるに従って無限次元系の量子状態の完全な記述に近づいていく。
時間が許せばこの手法を量子鍵配送の安全性証明に応用した結果を紹介する。
- 日時:4月12日(月)17:00-
- 講演者:大坂博幸さん(立命館大学)
- タイトル:行列環上の正値線形写像と量子情報理論への応用
- 概要:
行列環$M_m(\C)$ から$M_n(\C)$への線形写像$\phi$が,正値であるとは, 任意の半正定値行列$X \in M_m(\C)$を, 半正定値行列$\phi(X) \in
M_n(\C)$に写すことをいう. 1963年からSt\o rmerによりC*-環上の正値線形写像が研究され始め, 1968年にArvesonによるC*-環上の完全正値線形写像の研究と続き,
1970年代から2000年代にかけて行列環上の正値線形写像の研究が, Choi, Woronowicz, 高崎-富山,富山, 棚橋-富山 Robertson, St\o rmer, 大坂,
Kyeを中心とする韓国数学者グループにより積極的に調べられた. 量子情報理論とのインターセクションは, 1996年のPeres, Horodecki's
グループによる正値線形写像による量子エンタングルメントの探索特徴付けが始まりであるように思える. その当時は, PPT状態に注目されていた. 実際, $M_2(\C) \otimes M_k(\C)$
$(k =2, 3)$において, 状態がseparableであることとPPT状態であることは同値である. $M_3(\C) \otimes M_3(\C)$において,
PPTエンタングルメントが始めて現れる.
この講演において, 行列環上の正値線形写像の概説と量子情報理論への応用について紹介をします。まず行列環上の正値線形写像の基本的性質に触れ, 正値線形写像の構造解析に触れる.
その解析を行う過程において発見された, 量子エンタングルメントを探索する分解不可能な正値線形写像の例と構成について, St\o rmerによるクライテリオンに絡めて紹介する.
時間があれば、正値線形写像に関わる量子情報理論の最近の話題に触れる.
過去のセミナー (2020年度)
- 日時 : 2月1日 (月) 17:00-
- 講演者 : 縫田光司さん (東大)
- タイトル : 量子計算と暗号の安全性
- 概要 :
量子情報分野における研究の進展に伴う量子計算の性能向上は、ほぼすべての科学技術分野において歓迎される事態であろうが、その例外に位置するのが暗号分野である。というのも、素因数分解(と離散対数問題)を多項式時間で解くShorの量子アルゴリズムを筆頭に、量子計算の著しい性能によって暗号技術への攻撃可能性が強まってしまい安全性が脅かされうるからである。
そこで暗号分野ではShorの結果以降、量子計算でも解きにくいと期待される計算問題を構成原理に据えた「耐量子計算機暗号」が研究されている。本発表では、その耐量子計算機暗号という分野の概要を紹介する。
なお、「量子情報セミナー」での発表ということで、普段の概説よりも量子計算との関連性の比重を高めた内容にする予定である。
- 日時:12月21日(月)17:00-
- 講演者:飯沼昌隆さん(広島大)
- タイトル:実験から見た量子情報科学ー光子とスピンを中心にー
- 概要:
量量子計算、量子暗号に代表される量子情報技術は、量子論の特徴を取り入れた
情報技術として近年飛躍的発展を遂げ、実用化を目指した研究に移行しつつある。
このような状況下で、物理学として発展した従来の量子力学とのギャップが
目立つようになり、量子物理学としての側面が見えにくい状況にある。そこで
本セミナーでは実験に重点を置き、情報科学としての量子情報科学と物理学
としての量子力学をつなぐための解説を試みる。
実験は広範囲に及ぶため、特に光子とスピンを中心に解説する。
- 日時:11月9日(月)17:00-
- 講演者:高倉龍さん(京都大学)
- タイトル:Preparation Uncertainty and Measurement Uncertainty in GPTs
-
概要:
量子論の大きな特徴の一つとして不確定性関係の存在がある。量子論においては,状態準備についての不確定性(Preparation
Uncertainty)と同時測定についての不確定性(Measurement Uncertainty)の二種類の不確定性が存在することが知られており,各々に様々な定量的表現が与えられている。
量子論においては更に,適当な指標の下でこれら二つの不確定性をある意味で同一視できることも示されている。
本発表では操作的に許される最も一般的な理論である一般確率論(GPTs)においても二種類の不確定性を考え,状態空間にある種の幾何学的な対称性が課された理論において,二つの不確定性関係に量子論と同様の対応が成り立つことについて説明する。
- 日時:10月19日(月)17:00 -
- 講演者:鹿野豊さん(慶應義塾大学)
- タイトル:乱数生成と量子論の基礎の関係性
- 概要:
「乱数」とは確率1/2で「0」と「1」が並べられた時系列の数列のことである。しかし、「乱数生成機」から出力された乱数列が本当に確率1/2で出力された時系列になっているかどうかということを検証することは極めて難しい。これまで、デジタル計算機上で実行されるアルゴリズムは本質的には予測可能な「疑似乱数生成」でしかなかった。一方、物理乱数生成機と呼ばれる物理法則に起源をもつ乱数生成方法では、物理法則の中に本質的に確率的な出力をすることが出来るかどうかが鍵となる。この問題は量子論の基礎を検証する問題と深く関連している。本セミナーでは、乱数生成の歴史からはじめ、それをどのように検証しようとしてきたのかということをレビューし、量子論の基礎を検証する問題とどのように関連しているのかということを指摘する。そして、最後に現在、我々が進めている量子力学の原理を使って動作している量子コンピュータから出力される乱数列を検証することにより、量子コンピュータの状態を検証しようという試みの現状を紹介する。
参考文献
YS, Unpredictable Random Number Generator, https://fqxi.org/community/forum/topic/3431
- 日時:9月24日(木)15:00 - 16:40
- 講演者:石坂智さん(広島大)
- タイトル:量子相関極点の必要十分条件
- 概要:
量子非局所相関の限界が、光速を超えた情報伝達を禁止する原理よりも強い原理によって制限されていることが明らかになって以降、量子相関限界を規定している基本的な物理原理を探すための研究が近年行われている。そのような物理原理として情報因果律などが提案されているが、全ての量子相関限界を説明するには至っていない。一方、最も簡単なベル不等式の設定
(2者それぞれが2つの2値測定を行う設定) においてすら、量子相関限界を特定するための数学的条件も解析的には得られていない状況にある。
本発表では、まず量子相関が情報因果律よりも強い原理である暗号的な情報原理によって制限されていることを示す。この暗号原理は『遠隔者の測定結果の推測確率の最適値』という情報理論的な量を用いて表すことができるが、この情報理論的な量が『保証可能
(certifiable)』になるという条件が、極点の量子相関限界を同定する必要十分条件になっているという数値計算結果を示す。またこの条件と、量子状態ベクトルの幾何学的構造が自己テスト可能になる条件との関係も議論する。